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2010/09/26

[読書]約定率が低いことは良いことか『システム改革の正攻法』

 

正確には、システムの性能が上がったことを外部の人に示す指標として約定率の低下を用いるのは適切なんだろうか、という疑問です。

 

本書『システム改革の正攻法』の冒頭で、東証新システムarrowhead導入の効果について、以下のように記述されています。

arrowheadの導入効果は、早くもデータに表れている。代表例が東証の株式市場における「約定率」の変化だ(図1-4)。約定率とは、約定件数を全注文件数で割った値であり、これが低いほど、一般的に株式売買システムの応答スピードが速いと考えることができる。全注文に占める取消注文が相対的に多いからであり、約定までに注文と取り消しを繰り返す回数が増えたと考えることができるからだ。

引用文中の図1-4というのは、期間や表記方法は異なりますが、東証のwebサイト『arrowheadのIT Japan Award2010「経済産業大臣賞(グランプリ)」受賞について』(2010/07/05)の2つめのPDF『arrowhead(東証株式売買システム)の「①IT Japan Award2010 経済産業大臣賞(グランプリ)受賞」及び「②arrowhead稼働後6ヶ月の運転状況」について』11ページ目と同じようなものです。

上記のPDFでも『稼働前は40%以上あった約定率が、稼働後に40%を下回る水準に』と書かれているように、現在の東証は約定率低下は好ましいことである、としています。

その他、東証が約定率に関して触れている記事を探したところ、鈴木義伯東証CIOの講演『東証新売買システム(arrowhead)の開発経緯について~上流工程の取り組みとその効果~』(2010/04/27)に関して、日本システム監査人協会が発行する活動報告(SAAJ 会報)PDFにありました。

3.稼動後の状況
arrowhead 稼動後、東証自身で各種の稼動状況のデータを収集し分析を実施している。
主な指標とその傾向は以下の通りである。
(1) 注文件数/約定件数/約定率
注文件数の増加と約定件数の微増という傾向が見られる。ただし、約定率は低下傾向にあるが、これは注文の小口化が進んだ結果が要因であろうと分析している。

ここでは約定率の低下とシステム刷新の因果関係を否定しているように取れますので、途中で方向転換したのかもしれません。

余談ですが、ライブドアショック後2006/01/18に行われた記者会見の議事録PDFでは、深山浩永執行役員(当時)と記者とのやり取りで以下のように発言されており、注文の小口化と約定率の因果関係の説明に一貫性がありません。

深山「[前略]注文件数の半分程度が約定件数であろうという見方をしておりましたが、最近の傾向だと、約定率が若干増加傾向を示しているということがございます。[後略]」

記者「その背景にあるのは何ですか。」

深山「正確にはよく分からないのですが、システム発注等で細かくいっぱい成立させていくということがあるのではないかと想像されます。」

 

閑話休題。

一般的に、取引参加者から見て約定率は高い方が良いのでしょうか、低い方が良いのでしょうか。単純に考えると約定率が低いということは、買いたいのに買えない(あるいは売りたいのに売れない)という状況であるため、高い方が良さそうに思えます。

別の見方をすると、買いたくもない注文(売りたくもない注文)を出して取り消していることになりますので、見せ玉と何が違うのか、とも感じます。

また、Googleで”約定率”を検索してみると(FX業者がうざったいので-FXも指定しています)、約定率が低いことが良いことだと主張しているのはarrowhead関連の記事だけのように見えます(ちなみにFX業者は高約定率を売りにしています)。にちゃんねるのアローヘッドスレでは概ね不評のようです。

 

一方、米国のwebサイトでは、取消率の高さ(つまり約定率の低さ)”cancellation rate”はHigh-Frequency Trading(HFT)関連の話題でしばしば登場しており、賛否両論のように感じました。

これについてはSECwebサイトPress Release: SEC Issues Concept Release Seeking Comment on Structure of Equity Markets(2010/01/13)の一番下のリンク先PDF”The full text of the concept release”及びこれに対する証券会社等からのコメントを読めば現状を理解できる…と思うのですが、英語は不得意なもので…concept release「Fairness of Market Structure」節の以下の文章辺りが該当の箇所でしょうか…

Rule 605 does not require disclosure of the amount of time that canceled non-marketable orders are displayed in the order book of trading center before cancellation. Considering the high cancellation percentage of non-marketable orders, should Rule 605 require the disclosure of the average time that canceled orders were displayed in the order book?

ただ、Jun. 17, 2010 Memorandum from the Division of Trading and Markets regarding a June 16, 2010, meeting with representatives of Tradeworx, Inc. のPDFでは、取消率の高さは問題ではない、と頑なに主張しているようなので、逆に言えばSECは取消率の高さを問題にしている、少なくともSECは取消率の高さが問題ではなかろうかと提言している、のではないかと思われます。

 

そんなこんなで、「約定率が下がりました!」「おお、すごい!」となる程の共通認識は取られていないのではないか、と考えたのですが、実際のところどうなんでしょう。

 

関連エントリ: [読書]どの口が東証システム(arrowhead)開発を指して正攻法だとのたまうのか『システム改革の正攻法』

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