[読書]彼女と二人で「C」体験!にあえてツッコむv2.0
副題は”絶頂ポリモーフィズム”。今回もストーリーにはなるべく触れないようにしていますが、終盤のギミックに関わっているのでネタバレありです。ちなみに前回はこちら。
コンピュータ対戦プログラミングについてよくは知らないのですが、
- プレイヤ(チーム)ごとに1つのクライアントがあって、自分のユニット(駒)に命令を出すために用いる。
- それぞれのプレイヤの命令は1つのサーバに集められ、1ターンごとに各プレイヤの命令を集計し、結果をそれぞれのプレイヤに返す。
みたいな感じでしょうか。あと、
- 第31回全国高校生プログラミングコンテスト CHaser2010 ステップアップヒント1(pdf) 7.通信の仕様(上級者向け)
- 全国高等専門学校 第21回 プログラミングコンテスト 募集要項(pdf) 競技部門 競技手順およびWeb API
- コンピュータ将棋 CSAサーバプロトコル ver.1.1.3
あたりを見ると、
- プレイヤは命令を事前に設定された規約に従った文字列(プロトコル、あるいはもうちょっと明確にした「電文(業界用語)」と呼ぶのが適切ですかね)に変換した上でサーバに送る。
というのも共通的なものでしょうか。
上記3つのゲームでは、各プレイヤの操作するユニットは同性能ですが、本劇では基本性能もカスタマイズできるようなので、どちらかというとRobocodeみたなものをイメージするのが良さそうです。
さて本題です。
p.98
[前略]プログラムはワンステップずつ処理される。たった一行のコードで、すべての兵士オブジェクトに対し、そんな命令が下せるものなのか―。
この大会では、セミコロンまでの一処理を一ステップまで扱っている。たとえば、
int i;
i = 5;
これで二行。二ステップだ。
少し前(p.85)でも説明は出ていますが、ここではもう少し具体的な記述になっています。ソースコードそのものが性能に寄与するという点では、冒頭で挙げた実際のゲームいずれとも異なります。切れ負けルールのあるコンピュータ将棋なんかだと、演算性能の高いクライアントで参加する方が相対的に有利になりますが、このルールだと純粋にアルゴリズム勝負になります…かね。前後半合わせて600ターン(p.85参照)なので、かなり厳しいルールだと思います。
ここでのステップの説明はWikipediaの論理LOCにもう少し詳しく書かれています。サーバがステップを認識できるということは、クライアントからサーバに送信するデータは、冒頭に記載したような単純な命令文字列とは異なります。また、コンパイルエラーなどの場面も登場することから、劇中のC/C++は実世界同様(インタプリタ言語ではなく)コンパイラ言語ということがわかります。プレイヤプログラムはソースコードの状態でサーバへ送信し、サーバ上でデバッグ情報をつけて最適化なしでコンパイル・実行する、みたいな…?
p.218
同じ名前のメソッドを、他のクラスと被ってなお、いくつでも作成できる。むしろ、同じ意味を持つものなら、同じ名前を付けるべき―。
多態性(ポリモーフィズム)。
それが保証されているC++言語だからこそ、やりえた作戦だ。
なんかグローバル関数とメンバ関数の対比、ひいてはCとC++の対比のような表現になっていますがそれはともかく。
劇中では、多態性を利用して、一方のクラスインスタンスを他方のクラスインスタンスに見せかけています。
C++などの静的型付け言語(p.123参照)での多態性は、一般的には共通の基底クラスへアップキャストすることで実現します。しかし、ここでは、それぞれのクラスが共通の基底クラスを持たず、単純に同名の関数を持っているだけです。従って、これは継承による多態性の実現ではなく、ダックタイピングによる多態性の実現です。
- C++でダックタイピングを行おうとした場合、あらかじめ型がわかっていないとコンパイルできない(リフレクションを備えている言語であればこの限りではありませんが…)。継承によって多態性を実現していたとしても、共通の基底クラスは相手チームローカルな情報であって自チームには知らされていないため、この場合も判断は不可能でしょう。
- ダックタイピングとは、Wikipediaにあるとおり、歩かせてみて鳴かせてみて初めてアヒルとわかるものであり、行動を起こす前(劇中の表現を用いると相手が反応する前、すなわちこちらが攻撃行動をとる前)にアヒルであると判断することは不可能です。
ちなみに、戦況を映すスクリーン上では、異なるクラスのインスタンスであるユニットはそれぞれ別物であると認識できています(p.214参照)ので、サーバへは実行時型情報のようなものを通知するようになっているのかもしれません。
p.231
『0x335afc』
[中略]
「”デマゴゴス”の本体アドレスですっ!」
[中略]
一騎の”ヘタイロイ”が、何もないマスに向かって突撃する。[後略]
普通に考えると、アドレス、というのはフィールドの座標のことでしょうか。かなり広大なフィールドに思えますが、0番地から始まっているとは限りませんし、冒頭に示した高専プログラミングコンテスト募集要項中「フィールドのセル番号」にあるように、無効番地がある可能性もありますね。
p.32
“『第二十二回プログラミング甲子園』、開会式を行います―”
p.151
「あたしの意見じゃないわよ」
「誰だよ」
「坂本龍馬」
「二十二回」「坂本龍馬」というのは第21回高専プログラミングコンテストへのオマージュでしょうか。
p.118
int nAction = nGetAction();
if (nAction == OPARATION_ATTAK)
{
この定数”OPARATION_ATTAK”は大会主催者が提供しているライブラリで定義しているものでしょうか。これも同コンテスト決勝戦 procon21-08.wmv の映像13分ごろ「異常ではない」のオマージュですね(補足しておくと、実際のプロコンの方はバグだったようです(同映像42分ごろ))。他ではp.231,p.258で英字の誤字を見つけました。
One More Thing:
「彼女と二人で」の英語表現が”by she and two people”(p.4参照)になってますが、これって多態的にヤバくないでしょうか…
(追記: これはexcite翻訳(powered by BizLingo)の仕業ですね)
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